メンテナンス/ お手入れ
木のペーパーナイフとバターナイフは使っている内に刃先が傷むことがあります。特にバターナイフは毎日トーストにバターをぬっていると刃先が荒れてきますね。でも、木はメンテナンスのしやすさも特徴です。さっそくお手入れをしてみましょう。
上にある画像を参考にしてください。クリックすると大きく表示されます。
1. まずは刃先の確認です。かなりギザギザになっていますが、これくらいは全然大丈夫です。
2. サンドペーパーを用意します。180番と240番があるといいですね。サンドペーパーは裏面に番手が記載されています。適当な大きさに折り、裏面に定規を当てて切ることができます。5x15cmくらいの細長いものを3つ折にして使います。
3. 始めに180番を使います。刃先から5~10mmくらいのところまでを後ろから前に向かってのストロークで削ります。前後には動かしません。この方が形が崩れず、きれいに整います。片側8~10回かけ、反対側も同じ回数かけます。力はいりません。サンドペーパーの抵抗を感じながらシャッと削ります。刃先が削れ、ギザギザがきれいに取れるまでこの作業を繰り返しますが、ギザギザがなかなか取れないときは刃先の上を、サンドペーパーで形に沿うように軽くなぞってみてください。2~3回なぞったら元の作業を繰り返します。
ペーパーナイフも同様に作業します。刃先が長いので削るときのストロークをしっかりと長くして、刃元から切っ先までサンドペーパーをかけます。
4. 次に240番を使って、刃全体を磨きます。これは180番でついた削り傷を取って、ツルッとした仕上がりにするための工程ですが、磨いている内に刃先もより鋭くなってくるはずです。バターナイフもペーパーナイフも過度に鋭利な刃先は持ちが悪いので、ほんの少しだけ丸めます。刃先の形に沿うように240番を2回ほどかけてください。最後に刃全体を整えて磨きは終了です。
5. 塗装します。えごま油を小さく切ったウェス(古いTシャツの切れ端など)で適量塗り、乾いたウェスでよく拭き取ります。半日以上は乾かしましょう。作業終了です。お疲れ様でした。翌朝が楽しみですね!
お手入れすると使い心地も戻りますし、より自分に近い道具になっていきます。メンテナンスも楽しいものですよ。是非お試しください。
最後に塗料のことですが、植物油には酸化するとしっかりと乾くものと乾かないものがあります。ちゃんと乾く種類で、食用の植物油ということで「えごま油」を選びました。他の食用油でもいいですが、乾きにくいものもありますから調べてからがいいですね。キーワードは「乾性油」
■お手入れに必要な道具
サンドペーパー 180番 240番
えごま油
ウェス
Thoughts & sights / つながり
僕たちの使う手道具、カンナやノミは半完成品で届きます。使い手が「仕立て」をすることで完成し、使える道具になります。半完成品には使い手が自分の考える使いやすさや必要な調整をする余地があります。また仕立てという工程で道具の細部まで知ることとなり、より深いつながりを得ることができるのではないかと思っています。そしてこのつながりが作るものに多少なりとも影響を与えると考えるのは僕だけではないでしょう。
道具は人の歴史と共にあります。国立科学博物館で行われた「ラスコーの壁画展」を見ましたが、壁画もさることながら展示されていた2万年前の縫い針に心惹かれました。長さ5cmほどの縫い針は大型動物の角から削り出されたもので、丁寧さ、緻密さを感じました。また道具としての使いやすさを考え、細かい工夫がされていました。2万年前も今も「ものづくり」ということでは何も変わらないことを知りました。そして純粋であり、祈りのようなこと、そういう何かが込められていると感じました。人と道具とそれを取り囲む世界が静かにしっかりとつながっていたのだと思います。
私たちの世界は彼らの生きた世界からすると少し変わりました。考え方も変わりました。それでも、ものつくりということでは何も変わらず、道具との関わり方も同じなのだと知りました。ただ道具がささやく声は小さく、耳を澄まさないと聞こえません。今は身の回りに物が増え、人も増え、それぞれが華やかな音、声を出すようになった気がします。静かな道具の声を聞くには「仕立て」「手入れ」という関わりが必要かもしれません。
そして関わりの中で道具は「思い入れのある道具」へと変化し、人の感性にも影響を与えるでしょう。結果、自分が見ている世界にも何か違いを生み出すのではと思うのです。
僕の作ったバターナイフがトーストをより美味しくしていると感じる方もいるかもしれませんが、それはあったり、なかったりする話しです。でも、あなたがお手入れしたバターナイフならきっと何かが変わります。それはあなたと道具との関わりが生み出す世界ですから。